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【特別掲載】冲方丁『骨灰』

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得体の知れない怪異と不条理が襲いくる――。鬼才が放つ、戦慄の長編ホラー。 『天地明察』『十二人の死にたい子どもたち』「マルドゥック」シリーズ。 ジャンルを超越しベストセラーを生み… もっと読む
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#連載小説

祭祀場の持つ意味に近づく光弘だったが――。 「骨灰」#24

祭祀場の持つ意味に近づく光弘だったが――。 「骨灰」#24

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 ひとしきりそんな歓待の言葉があってのち、
「菅原所長からご連絡を頂きまして。祭祀場で何かあったとか」
 おもむろに社長の玉井が本題に入った。
「あ、はい。東棟の地下室は、御社が管理されていると伺いまして」
 光弘は鞄からタブレットを取り出すと、あらかじめ用意しておいたファイルを開き、地下の神棚や、四角い穴の画像を読み出して彼らに見せた。
 社長の玉井が深々とうな

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光弘は、祭祀場の管轄をする玉井工務店を訪れる。 「骨灰」#23

光弘は、祭祀場の管轄をする玉井工務店を訪れる。 「骨灰」#23

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 行き先は秋葉原だった。駅を下りて、携帯電話で地図を見ながら雑居ビルが並ぶ河岸付近の通りを進み、該当するビルに入った。一基だけあるエレベーターに乗る前に、竹中に電話をかけ、これから玉井工務店の事務所に入ることを告げた。
「じゃ、一時間後にな」
 竹中の後方支援を頼もしく思いながらロビーの表札を確認し、エレベーターで四階に上がった。
 外廊下に出ると、天井と手すり壁

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「見えないお客さんもいってらっしゃい」。娘の一言が頭に残る。 「骨灰」#22

「見えないお客さんもいってらっしゃい」。娘の一言が頭に残る。 「骨灰」#22

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 光弘は通りを渡ろうとした足を止めて振り返った。
「え?」
 だが咲恵はこちらに背を向け、同じ帽子をかぶった子どもらがいるほうへ行ってしまった。
 光弘はしばしその場に佇んだが、すぐにかぶりを振り、自分の両肩の辺りを交互に見て苦笑した。見えないお客さんか。朝の陽光が降り注ぎ、大勢が行き交う通りでそのフレーズを思い出したところで、何の不安も感じなかった。
 妙なこと

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娘が炎に呑まれる――恐ろしい夢を見た。 「骨灰」#21

娘が炎に呑まれる――恐ろしい夢を見た。 「骨灰」#21

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 はっと光弘が目を開いたとき、娘を焼くおぞましい火の輝きはどこにもなく、寝室の暗い天井があるばかりだった。手は、耐えがたい熱を感じているはずだと思ったが、それもなかった。
 代わりに全身が小刻みに震えており、凍えたように奥歯がかちかち耳障りな音を立てている。遅れて、どっと恐怖の汗がにじみ出した。額を拭った手の平がびっしょり濡れるほどだ。
 こんな恐ろしい夢は

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またしても、あれが襲いかかってくる。 「骨灰」#19

またしても、あれが襲いかかってくる。 「骨灰」#19

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 いやいや、そんな馬鹿な。
 光弘は頭から地下室のことを追い出し、書類を集めて束にした。それを鞄に入れて仕事のことは忘れ、ダイニング・テーブルに一人座ってソーダ水を口にすると、心も体もリラックスするのを覚えた。
 家族が寝たあと、一人でこうしていると妙にほっとするのはなぜだろう。穏やかで、やるべきことをやり終えたあとのような満足感もある。確かに、こういう気分でなら

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かつてひとりで酒を飲んでいた父の視線は、どこにも向けられていなかった。  「骨灰」#18

かつてひとりで酒を飲んでいた父の視線は、どこにも向けられていなかった。  「骨灰」#18

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「悪かったな、付き合わせて。そろそろ寝たほうがいいんじゃないか」
「そうする。あなたは寝ないの?」
「これを片づけたら寝るよ」
 光弘はテーブルに広げられた書類のほうに顎をしゃくって言った。
 美世子がうなずきながら、遠くにあるものでも見るように書類を眺めた。
「会社に戻ったとき、私の仕事あるかな」
「そりゃあるだろう。部署でも頼られてたのは間違いないんだから」

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建設現場にあった祭祀場には、多額の予算が計上されていた。 「骨灰」#17

建設現場にあった祭祀場には、多額の予算が計上されていた。 「骨灰」#17


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第2章 たまい



「あっ。これって、工事費だけじゃなく、そのあとの維持管理費も入ってるのね」
 美世子が言った。赤ペンを持ったまま印刷された数字を目で追い、かと思うと、さっと線を引いた。
 光弘が覗き込もうとすると、美世子が書類をこちらへ向けてくれた。見ると契約期間が『二〇四五年六月末日』までであることを示す欄に、赤くアンダーラインが引かれている。
「本当

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謎の男は姿を消した。光弘は上司と対応を検討する。 「骨灰」#12

謎の男は姿を消した。光弘は上司と対応を検討する。 「骨灰」#12

得体の知れない怪異と不条理が襲いくる――。
鬼才が放つ、戦慄の長編ホラー。
『天地明察』『十二人の死にたい子どもたち』「マルドゥック」シリーズ。
ジャンルを超越しベストセラーを生み出す鬼才・冲方丁が綴る長編ホラー小説「骨灰」(こっぱい)。『小説 野性時代』2021年9月号から満を持してスタートした連載を、順次配信していきます。(連載の続きがすぐに読みたい方は本誌をぜひ!)
建設現場で遭遇する不可解

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解放した男とともに地上を目指すが、突如として火の手が上がり――。 「骨灰」#11

解放した男とともに地上を目指すが、突如として火の手が上がり――。 「骨灰」#11

得体の知れない怪異と不条理が襲いくる――。
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『天地明察』『十二人の死にたい子どもたち』「マルドゥック」シリーズ。
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穴の底に降り立ち、光弘は男と対峙する。 「骨灰」#10

穴の底に降り立ち、光弘は男と対峙する。 「骨灰」#10

得体の知れない怪異と不条理が襲いくる――。
鬼才が放つ、戦慄の長編ホラー。
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深い穴の底には、男が鎖でつながれていた。 「骨灰」#9

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得体の知れない怪異と不条理が襲いくる――。
鬼才が放つ、戦慄の長編ホラー。
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ジャンルを超越しベストセラーを生み出す鬼才・冲方丁が綴る長編ホラー小説「骨灰」(こっぱい)。『小説 野性時代』2021年9月号から満を持してスタートした連載を、順次配信していきます。(連載の続きがすぐに読みたい方は本誌をぜひ!)
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あるはずのない重機。違和感だらけの空間に、金属音が響く。 「骨灰」#8

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ああ、そうだ。この臭いは、〈人が骨まで灰になるときの臭い〉だ。 「骨灰」#7

ああ、そうだ。この臭いは、〈人が骨まで灰になるときの臭い〉だ。 「骨灰」#7

得体の知れない怪異と不条理が襲いくる――。
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図面にはない謎の空間。そこにぽっかり空いた四角い穴。この空間はいったい? 「骨灰」#6

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得体の知れない怪異と不条理が襲いくる――。
鬼才が放つ、戦慄の長編ホラー。
『天地明察』『十二人の死にたい子どもたち』「マルドゥック」シリーズ。
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